跳慮跋考

興味も思考も行先不明

心 Advent Calendar 2017

人工知能

知能としてはドメインに拘わらず人間に匹敵する様なAIが実現したとして、尚どういった懸念があり得るだろうか。私が一番難しいと思っているのは、「面白さ」や「美しさ」といった感性の再現である。感性は知性にも況して捉え難い性質を持つが、一方で感性の…

シンギュラリティ

「シンギュラリティ(技術的特異点)」とはレイ゠カーツワイルが唱えたもので、あらゆる技術はムーアの法則の如く指数関数的に発展しており、情報処理技術もまた例外ではなく、近い将来に人間の知性を追い越す事になるだろう、といった主旨である。 知能の指…

古典的諸問題

心(人工知能)には多くの難問が存在するかの如く語られるが、それは実際のところ人間を特別視しようとする近代までの傲慢と怠惰の産物に他ならない様に思われる。神ばかりでなく理性も死に瀕する現代に於いて、これらは既に歴史の一部へ変わろうとしている…

意識

意識とは何か。これは構成的な立場からすると「意識は何をするか」という事になる。それは凡そ以下の項目に整理されるだろう。 感じる(主観的体験、現象的意識、感情) 認識する(注意、志向性) 想像する 判断する(意思決定) 自我を持つ(メタ認知、自己…

エージェントモデル

知能の全体的なモデルはどちらかと言うと工学・産業分野でこそ熱心に探究されていると言ってもよいかもしれない。ここではそうした認識・判断・行動を統合するモデルを「エージェントモデル」と呼んでおく。ソフトウェアの設計思想として「エージェントアー…

解離と自我

(この文章は専門家によるものではなく、健康に関わるどんな判断も以下の情報を参考にすべきではない事をご承知下さい。)解離性障害は人間の心の最も複雑なメカニズムの一端を垣間見せる。 健忘 解離性健忘では、発症の背景に得てしてストレスフルな環境や…

他者理解

他者の心を理解するシステムを「心の理論」と呼ぶ。この概念はサイモン゠バロン゠コーエンが自閉症を心の理論の不在、「心に盲目である事(Mind-blindness)」として見定めた事から広まった。 サリー・アン課題 バロン゠コーエンが自閉症患者の心の理論につ…

精神疾患

(この文章は専門家によるものではなく、健康に関わるどんな判断も以下の情報を参考にすべきではない事をご承知下さい。)精神医学はいわば神経心理学のトップダウン版として、心への洞察を与えてくれる。 分類 精神医学では心の不調の原因を以下の 3 つに求…

パーソナリティ

パーソナリティを体系的に理解しようとする試みは多いが、その中でも広く知られているビッグファイブと、生理的な基盤を強く意識したクロニンジャーの7因子モデルについて述べる。 ビッグファイブ ビッグファイブ(5因子モデル)では以下の 5 次元でパーソナ…

論理と価値観

人間の知識(命題)は経験や情報伝達によって獲得され、また「推論」で述べた様な推論能力から新たな命題が生み出される。これらは確かとは限らないが、一方で人間の「論理」と呼ばれる能力は、既知の命題から必然的に成立する命題を導く。 形式論理 論理シ…

推論

概念 X に関する知識は P(X) という命題として表される。推論とは既存の命題から新たに尤もらしい命題を得る操作だと言える。人間の推論には 3 通りの方式がある。 帰納法 演繹法 アブダクション これらが導く命題は妥当とは限らないが、未知の命題を生成す…

進化心理学

進化心理学は心の特性を進化的に解明しようとする学問だが、その中心的な考えに「進化的適応環境」がある。人間は百万年以上の長い間、狩猟採集による生活を続けてきた。約一万年前に農耕を始める以前のこの環境が人間の心理的特性を進化させた(進化的適応…

精神力動論

ジグムント゠フロイトは我々が今や日常的に用いている「無意識」の概念を心に見出し、力動的な心理観を展開した。 騎手と暴れ馬 フロイトの提唱した心の構造は「第一局所論」と「第二局所論」に分かれるが、基本的には「騎手と暴れ馬」の比喩で理解できると…

感情モデル

感情を整理分類しモデル化したものとして幾つか有名なものがある。 エクマンの基本表情 感情自体ではなく表情(感情の顔による表現)だが、ポール゠エクマンは欧米、日本、スマトラ等の多様な文化間で「喜び(happiness)」「悲しみ(sadness)」「怒り(ang…

身体性から中心性へ

時に身体性が心に不可欠なものとして語られるが、この「身体性」という概念は幾らかの要素に分解できるだろう。ここに於いて物理的な身体が存在する必要は必ずしもない様に思われる。 接地 これは恐らく「マリーの部屋」の思考実験が提起する問題に端を発し…

側性と分離脳

脳の機能的な非対称性は「意識の座」がどこにあるのか、という問いに重大な示唆を与える。 側性 側性(laterality)とはある機能が、左脳と右脳の片方に偏って存在する事を指す。側性が顕著なのは言語能力で、右利きの場合は殆どの人間が左脳に言語能力を持…

哲学

この一連の文章は物質的・構成的な「心」の理解を目指すものであるから、「イデア」「神」といった物質とも精神とも乖離した超越的存在には否定的な立場を取る。 例えば「我思う、故に我在り」として自己の存在のみを公理として置いたかにみえるルネ゠デカル…

認知文法

二十世紀中頃の、プラトン的で「固い」言語学に反発する認知言語学の一派として、ロナルド・ラネカーは認知文法を提唱した。プラトン的とは即ち、言語を超越的な、人間の活動とは独立に存在するとする考え方である。認知革命は世界の法理に通じるロゴスであ…

スキーマと操作

ジャン・ピアジェは認知発達の議論において「スキーマ」(彼はフランス語で Schèmeシェム と Schémaシェマ を区別し、後者は操作性のない図式・イメージに使っている。ここでは慣例的な「スキーマ」の語を、前者を指すものとして用いる)を導入した。 スキー…

時空間モデル

人間は時空間の様子について非常に多様な記号化を行う。 空間 二つの物の位置関係だけでも「接している」「噛み合っている」「重なっている」「乗っている」「入っている」「覆っている」「近い」「離れている」などと言う事ができ、これに「少し入っている…

視覚イメージ

V1 では網膜像の構造(任意の二点間に距離が定まっている事が本質的であり、数学的には距離空間の構造と言える)をよく保存しているが、それは処理が進むにつれて失われる。視覚イメージに関して非常に興味深い障害に半側空間無視(hemi-inattention)がある…

大脳新皮質

大脳新皮質は前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分けられ、左右で独立している。左右の脳は脳梁などの一部でのみ接続しているが、驚くべき事にこれを全て切断しても(分離脳)日常生活にほぼ支障がない。 感覚情報は次の様に各脳葉へ入力する。 視覚→後頭葉後…

脳の新皮質以前

脳は内側からざっくりと脳幹・間脳、大脳辺縁系、大脳新皮質に分けられ、外側ほど新しい、つまり後の時代の生物で進化した構造になっている(勿論単純に層が追加されていった訳ではないが)。 部位 機能 脳幹 生命維持・反射 間脳 単純な感覚情報処理 大脳辺…

コネクショニズムとシンボリズム

心 Advent Calendar 2017 - Adventar主に人工知能の分野において、心というものの捉え方(これはどう作るかという工学的見方が強い)には大きく二通りがある。 コネクショニズム シンボリズム(記号主義) 脳と心の関係を、物理的な下位構造(脳)の基盤によ…

心 Advent Calendar 2017

心 Advent Calendar 2017 - Adventar心の話をしようと思います。内容は上のページの通り脳神経から哲学まで横断しますが、どれも専門的な教育を受けた訳ではないのであまり信用しない方が良いかも知れません。Wikipedia と同じくらいの信頼度だと思って下さ…