跳慮跋考

興味も思考も行先不明

『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』第四話より、人は微妙に組成が違うレンズの音を聴き分けられるか

レンズの固有振動数ってどんなもんかな? ってお話。
データも根拠も怪しいものですが、参考程度に。

基本振動だけ分かればいいので、レンズは円筒が連なって円柱を成しているものと看做します。
すると円筒のずれに対する復元力を求めるには、ガラスの剛性率(横弾性率、剪断弾性率とも)が必要。
山善特殊硝子製作所にデータがあるけど所々抜けているので、ガラスが等方的と仮定してヤング率とポアソン比から剛性率を求める*1
 G = \frac{ E }{ 2 (1 + \gamma) }
G:剛性率、E:ヤング率、γ:ポアソン比。

すると、長さ l で断面積 A の物体が ⊿x だけずれた時の剪断力 F は
 F = \frac{ GA \, \mathit{\Delta} x }{ l }
となり、円盤の変形 x を半径 r の関数とし、l = ⊿r として円筒に適応すると
 \rho A \mathit{\Delta}r \frac{d^2x}{dt^2} = \frac{ GA }{ \mathit{\Delta}r } \{ x(r + \mathit{\Delta}r) - x(r) \} - \frac{ GA }{ l } \{ x(r) - x(r - \mathit{\Delta}r) \}
 \rho \frac{d^2x}{dt^2} = G \frac{ x(r + \mathit{\Delta}r) + x(r - \mathit{\Delta}r) - 2 x(r) }{ \mathit{\Delta}r^2 }
ここで右辺は二階差分であり、⊿r→0 の極限において二回微分と一致する。
 \frac{ \rho }{G} \, \frac{d^2x}{dt^2} = \frac{d^2x}{dr^2}
即ち一次元の波動方程式と同等であるから、波の速さが v = √(G/ρ) と求まり、固定端条件での基本振動を考えるとその波長は 4R なので、v/(4R) で固有振動数が求まる。筈。

で、最後にレンズの半径が問題となる。劇中の描画からは直接は推定し難そうなので、統計値に頼る。
平成24年度の学校保健統計調査によると 15 歳の女の子の平均身長は 157.2 cm*2身長別ボディサイズ平均なるサイトのデータから線形内挿すると手長は 17.56 cmとなる。大体その半分がレンズの直径と考えると、半径は 4.4 cmと推定される。
まぁ周波数比を考えるんなら半径は打ち消されちゃうけど。

ネットで組成比が分かったガラスについてデータを示す*3

名称 パイレックス7740 テンパックス パイコール7913 石英ガラス
密度 (g/cm3) 2.23 2.20 2.18 2.20
ヤング率 (106 kg/cm2) 0.61 0.63 0.68 0.74
ポアソン 0.20 0.22 0.19 0.16
屈折率 (589.3nm) 1.474 1.472 1.458 1.459
剛性率 (106 kg/cm2) 0.254 0.258 0.286 0.319
波速 (m/s) 3342 3391 3584 3769
レンズの固有振動数 (Hz) 760 771 815 857
SiO2 81.2 81 96.4 100
B2O3 11.8 13 3.0 0
Al2O3 2.4 2 0.5 0
Na2O/K2O 4.5 4 - 0

さて、ここで成分の左の2つに注目すると、これらは成分が似通っており屈折率も近い一方で固有振動数には 11 Hz、比にして 25 セントだから半音の 1/4 もの差があることが分かる。
音の環境心理学の図 2.6 を見ると、この音域での弁別閾は 1~2 Hzであるから、これは十分に聴き分けることができると考えられる。

*1:実はパイレックスとかこの計算値と表の値が結構喰い違ったりするんだけど……。データの斉一性を重視して全部計算値を採用しておきます。

*2:日本人のデータだが

*3:それぞれの組成比は平岡特殊硝子製作株式會社Corning(pdf)より。石英ガラスは純度99.99%以上を言うんだとか。