跳慮跋考

興味も思考も行先不明

進化心理学

進化心理学は心の特性を進化的に解明しようとする学問だが、その中心的な考えに「進化的適応環境」がある。

人間は百万年以上の長い間、狩猟採集による生活を続けてきた。約一万年前に農耕を始める以前のこの環境が人間の心理的特性を進化させた(進化的適応環境、EEA)とし、それにどう適応しているかという観点から現在の人間の心理メカニズムを調べるのが進化心理学の方法論である。

生きづらさ

進化に説明を求める動機の一つとして、現在の不適応は過去の適応の名残なのではないか、という考えがある。

例えば EEA の環境は変化に富み、食物の供給は安定せず砂糖や脂肪に富んだ食事などありえなかった。故にそれらの過剰摂取へ対処する機構は必要とされず、栄養事情に関して真逆と言っていい現代では糖尿病や肥満といった不適応が現れている。こうした説明が進化的観点からは与える事ができるのである。

またこれは私見だが、所謂「承認欲求」も EEA において社会の成員として認められ、諸々の援助を社会から獲得する為に必要だったのではないか、という風に考えられる。

性差

EEA に於いては男女分業が成立しており、性差はそこでの淘汰圧の違いから発生したと考える事ができる。

例えば空間的認知では、男性の方が構造的な特徴の把握を得意とするのに対して、女性は風景やランドマークといった視覚情報の記憶を得意とする。この差は男性が狩猟で広範囲を動き回る必要があった(適応的だった)のに対して、女性は採集の為に食物の場所や食べ頃を憶える必要があったからだ、という事になる。

他にも嫉妬感情では、男性が肉体関係を咎めるのに対して女性が精神面を咎めるのは、男性側からするとどの子が自分の遺伝子を継いでいるか判らないのに対し、情勢側からすると男性が自分の子供に投資してくれないと困るからだ、という説がある。

尤もこれらはそもそも性差が本質的にどこにあるか、また進化心理学全体に言える事として、それが本当に後天的ではなく先天的なものなのか、という点を究明するのは難しく、濫用を警戒しなければならない論理でもある。