跳慮跋考

興味も思考も行先不明

『すずめの戸締まり』絆によらない救済、子になれなかったダイジン

幸せな明日を願うけど 底なしの孤独をどうしよう*1 死ぬのは怖くない、「生きるか死ぬかなんてただの運」と言い放つ鈴芽の生き様は『天気の子』から更に異なる輝きを見せたが、一方で「ダイジンが可哀相」という素朴な感想はエコロジー的な思想の流れとの齟…

周縁性とエコロジー:『天気の子』の思想と内面

このままだと今年全く何もしていない事になるので『すずめの戸締り』について書こうと思ったが、それにはまず『天気の子』の話をしなければならない。『天気の子』におけるキャラクターの姿を語らずして『すずめの戸締り』を語るなど、どうしても不可能に思…

日常系前史:他者としてのキャラクターとセカイ系

「日常系」は何故生まれたのか。 いや、本当に問うべきは「日常系」という物語の在り方が何故抑圧されて来たのか、という点かもしれない。 神話、民話、小咄や怪談……そうした物語に明確な「メッセージ」や「テーマ」がある事はむしろ少ない。我々の「物語」…

年語2021

日記代わりに今年の話をする。

『動物化するポストモダン』における諸概念

社会学的な話はここで追究しているキャラクター論の範疇から外れるが、東浩紀『動物化するポストモダン』には2021年現在から見ても有用な概念がいくつか提示されており、多くの議論がその枠組みに従っている。この記事では改めてそれらを整理し、議論の文脈…

原神の元素量理論

海外のwikiでもちょっと内容が良くなかったりして気になっていたので、自分でゴリっと書きました。 [原神] 元素量理論概説 HoYoLABに貼ろうと思ったんですが、今言語ぐちゃぐちゃで使い物にならないのでここに。

キャラクター演出分析:『スライム倒して300年』よりフラットルテ

「鑑賞におけるキャラクター対パーソナリティ」において「再認と投影」「有限と無限」などの観点からキャラクター(「登場人物」一般に敷衍しても良いと思うが)の鑑賞、あるいは演出のされ方にはキャラクター性とパーソナリティ性の二面があることを見出し…

原神における攻撃力%の最適な振り方

会心率と会心ダメージボーナス(ゲーム内表記の「会心ダメージ」)の比率は1:2というのはよく知られているが、攻撃力との配分については「バランスよく」と言われるものの具体的な情報が見当たらなかったので、wikiの式を元にダメージ期待値を最大化する配分…

VTuberの存在性とコンテンツ性

ここまでの記事とはやや毛色が変わるが、キャラクター対パーソナリティの概念があるとかなり見通しが良くなるので、一度VTuberについて触れておく事にする。

鑑賞におけるキャラクター対パーソナリティ

キャラクター(特に伊藤剛の言う「キャラ」として)の記号性はその読まれ方、鑑賞のされ方にどう影響しているのか。

記号的身体と「質感」

前回はキャラクターの記号性について図像の面から検討したが、この議論は図像以外の要素にも適用できるのだろうか。例えばアニメキャラは声(音声)も持っているが、これは現実世界と遜色ない情報量を有している様に思われる。それでもアニメキャラの身体は…

キャラクターの「記号性」について

先の記事(『テヅカ・イズ・デッド』の解釈メモ - 跳慮跋考)で課題としたキャラクターの「記号性」について分析したい。

『テヅカ・イズ・デッド』の解釈メモ

伊藤剛『テヅカ・イズ・デッド』(NTT出版、2005)はよく参照される割にその解釈が一致を見ていない様だ。ここで伊藤剛の「キャラ/キャラクター」についての考えを纏める事で、個人的に決着を附けておきたいと思う。ただ『テヅカ・イズ・デッド』以降の議論…

年語

雑談の様な気分で普段より緩く書いている(括弧を多用したり表現の重複を許したり)ので読む場合は留意されたい。

暁美ほむらの叛逆について

先の記事で触れた暁美ほむらの叛逆の動機について論じたい。*1 暁美ほむらは何故「叛逆」に至ったのか? それを紐解く為には『叛逆の物語』以前、『まどか』本編での彼女の心理的な足跡を辿る事から始めなければならない。 *1:他にも自分の以前の記事が悉く…

正義と善:マギアレコード第1部に寄せて

マギアレコード第1部において、環いろはは決して正義を語らなかった。彼女は「べき」を語らない。「間違っている」という言葉に、「何者かを傷付ける」以上の意味を込める事は決してない。それは物語上の敵に当たるマギウスに対しても変わらない。 それはね…

えんどろ~!第5話、それは日常系だからこそ

今期のアニメ作品『えんどろ~!』は元々「かわいい」「メイのキャラアピールがもうちょっとテンプレ的じゃないと嬉しい」くらいの低解像度で観ていたのだが、第5話の台詞をきっかけに大きく視聴態度を正される事になったので、ここで(やや今更ながら)その…

世界改変直後の暁美ほむらの心情について

マギアレコードにまどか本編における暁美ほむら(クーほむ)が実装された。190121.magireco.comイベントストーリー及び彼女の魔法少女ストーリーは基本的にまどか☆マギカ本編の内容を暁美ほむらの視点で時系列順に整理したものだが、第12話の別れから世界改…

感情と魔女と

稀少なこのブログの読者はタイトルを見てまどかの話と思うかもしれないが、それは半分当たりで半分外れだ。soleilunepleine.stores.jp

『ヒトはなぜ笑うのか』を読みました

「面白さの調節ってかなり大変なんじゃないの」という話を書いた流れで、『ヒトはなぜ笑うのか』(シュー・M・ハーレー、ダニエル・C・デネット、レジナルド・B・アダムズJr.、片岡宏仁訳、勁草書房、2015)を読んだ。 手短に この本の主張はざっくりと言っ…

人工知能

知能としてはドメインに拘わらず人間に匹敵する様なAIが実現したとして、尚どういった懸念があり得るだろうか。私が一番難しいと思っているのは、「面白さ」や「美しさ」といった感性の再現である。感性は知性にも況して捉え難い性質を持つが、一方で感性の…

シンギュラリティ

「シンギュラリティ(技術的特異点)」とはレイ゠カーツワイルが唱えたもので、あらゆる技術はムーアの法則の如く指数関数的に発展しており、情報処理技術もまた例外ではなく、近い将来に人間の知性を追い越す事になるだろう、といった主旨である。 知能の指…

古典的諸問題

心(人工知能)には多くの難問が存在するかの如く語られるが、それは実際のところ人間を特別視しようとする近代までの傲慢と怠惰の産物に他ならない様に思われる。神ばかりでなく理性も死に瀕する現代に於いて、これらは既に歴史の一部へ変わろうとしている…

意識

意識とは何か。これは構成的な立場からすると「意識は何をするか」という事になる。それは凡そ以下の項目に整理されるだろう。 感じる(主観的体験、現象的意識、感情) 認識する(注意、志向性) 想像する 判断する(意思決定) 自我を持つ(メタ認知、自己…

エージェントモデル

知能の全体的なモデルはどちらかと言うと工学・産業分野でこそ熱心に探究されていると言ってもよいかもしれない。ここではそうした認識・判断・行動を統合するモデルを「エージェントモデル」と呼んでおく。ソフトウェアの設計思想として「エージェントアー…

解離と自我

(この文章は専門家によるものではなく、健康に関わるどんな判断も以下の情報を参考にすべきではない事をご承知下さい。)解離性障害は人間の心の最も複雑なメカニズムの一端を垣間見せる。 健忘 解離性健忘では、発症の背景に得てしてストレスフルな環境や…

他者理解

他者の心を理解するシステムを「心の理論」と呼ぶ。この概念はサイモン゠バロン゠コーエンが自閉症を心の理論の不在、「心に盲目である事(Mind-blindness)」として見定めた事から広まった。 サリー・アン課題 バロン゠コーエンが自閉症患者の心の理論につ…

精神疾患

(この文章は専門家によるものではなく、健康に関わるどんな判断も以下の情報を参考にすべきではない事をご承知下さい。)精神医学はいわば神経心理学のトップダウン版として、心への洞察を与えてくれる。 分類 精神医学では心の不調の原因を以下の 3 つに求…

パーソナリティ

パーソナリティを体系的に理解しようとする試みは多いが、その中でも広く知られているビッグファイブと、生理的な基盤を強く意識したクロニンジャーの7因子モデルについて述べる。 ビッグファイブ ビッグファイブ(5因子モデル)では以下の 5 次元でパーソナ…

論理と価値観

人間の知識(命題)は経験や情報伝達によって獲得され、また「推論」で述べた様な推論能力から新たな命題が生み出される。これらは確かとは限らないが、一方で人間の「論理」と呼ばれる能力は、既知の命題から必然的に成立する命題を導く。 形式論理 論理シ…